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ブライアン・オーサーが語る羽生結弦の強さの秘密

高みを目指しつづける羽生と、羽生を温かくサポートしながら課題を冷静に分析するオーサー。この2人のタグが、フィギュアスケートという競技のレベルをどこまで押し上げていくのだろうか。シーズン最大の試合である世界選手権は、あと2週間後に迫っている。


今シーズン、圧倒的な強さを見せる羽生結弦。2012年の夏にカナダのクリケット・クラブに拠点を移し、ブライアン・オーサーに師事するようになってから、もうすぐ4年が経つ。ここでは、International Figure Skatingで、オーサーが今シーズンの羽生の強さの秘密について語っている記事を紹介することにしたい。

羽生にとって大きな転機となったのが、昨年11月に行われたNHK杯だ。ショートプログラムで4回転サルコウと4回転トゥループ・3回転トゥループのコンビネーションを組み込む高難度構成に変更し、106.33点を叩き出した。2014年ソチオリンピックで自身が出した世界記録である101.45点を5点近く上回ったのである。オーサーは、このときのことについて次のように振り返っている。

誰かと話したのを覚えています。その人は、彼のショートプログラムは105点か106点はいくだろうと言っていました。私もそのくらいまではいくだろうと思いました。ですから、スコアが出たときも驚きませんでした。100点を超えることはわかっていましたから。それよりも重要だったのが、このプログラムがどのようにデザインされたのかをようやく目にすることができたことです。私たちは、このプログラムが成熟するのを待ち続けていました。ついに日本で、それが実現したのです。

オーサーはここで、スコアよりも、ショパンの「バラード1番」がプログラムとしてようやく完成したことに大きな意味を見出している。羽生は、2014年-15年シーズンから、ショートプログラムに「バラード1番」を継続して使用していた。衝突事故や病気などに見舞われ、けっして万全な調子とは言えなかった昨シーズン、一度もクリーンに滑ることができなかったプログラムだ。そのプログラムを、NHK杯で初めて完璧に滑ることが実現し、オーサーと羽生の喜びもひとしおだったことだろう。

(写真)2015年NHK杯のキスアンドクライで


 

◆ ブライアン・オーサーの戦略

羽生の強さの秘密は、いったいどこにあるのか。オーサーは、今シーズンを次のように振り返っている。

ユヅはより鍛えられて、生理学的にも、彼の身体の状態は少しよくなったと思います。彼は以前よりずっと丈夫にもなりました。スケートカナダの前までは、ユヅと私はプログラムの要素の順番やそのほかのことで少しぶつかっていました。そして、スケートカナダで、前へ進むために何をすべきか、話し合いの場を持ちました。

私は断固とした態度で、自分がこれまで推し進めてきたいくつかのやり方を変えなければなりませんでした。皆が耳を傾けてくれました。私たちは改善のために一緒に取り組みました。トレーニング方法も変更して、より密度の濃いものにしました。これが、彼を軌道に乗せる力になりました。希望の形に仕上げるためには、謙虚に物事と向き合う経験が必要になることもあります。

オーサーはここで、羽生の体力面が改善したことに触れながら、スケートカナダをきっかけに、コーチングやトレーニングの方法を見直したと語っている。具体的に何を変更したのか、詳しくは明らかにしていないが、さらに上を目指すためのさまざまな試行錯誤があったことがうかがえる。

 

◆ グランプリファイナルで見せた涙

羽生とオーサーが積み重ねてきた努力は、NHK杯とグランプリファイナルで実を結ぶことになる。羽生はショートとフリーで世界記録を更新したNHK杯のわずか2週間後、スペイン・バルセロナで行われたグランプリファイナルで、自身の持つ世界記録をさらに塗り替えてみせたのだ。このときのことについて、オーサーは次のように振り返っている。

彼がバルセロナでフリープログラムを滑り終えたとき、私には、彼が日本で出したのより高いスコアを獲得することがわかっていました。

スコアが出たとき、彼はとてもエモーショナルになりました。彼は泣き始め、私に言いました。「どうして泣いているのかわからない」と。彼はまさに、そのような瞬間の一つに立ち会っていたのです。彼はプレッシャーに圧倒されていました。誰だって圧倒されるでしょう。私たちは何も言いませんでした。本当にエモーショナルな瞬間でした。

オーサーによると、グランプリファイナルでの羽生は、プレッシャーに押しつぶされそうになっていたという。自国カナダの期待を一身に背負って2度のオリンピックを経験した選手として、また羽生を近くからサポートするコーチとして、このときの羽生の気持ちが痛いほどわかったのだろう。キスアンドクライでスコアが出た直後に涙を見せた羽生、そしてその背中をやさしくさするオーサーとの間には、ことばにならない瞬間が共有されていたようだ。

(写真)2015年グランプリファイナルで、再び世界記録を塗り替える


 

◆ 羽生の今後を見据えて

羽生はこれからどこまで高みを目指すのか。オーサーは、羽生の課題について、次のように分析している。

彼は自分が出したスコアをきっと超えられるでしょう。当面は、小さな部分から、少しずつ取り組んでいくことになると思います。あの晩、彼は本当に素晴らしかった。しかし私たちは、どの部分で点数を上積みできるかを知っています。彼が4回転ループをフリープログラムに入れたら、大きな得点源になるでしょう。スピンとステップでもさらにレベルを上げられるでしょう。

現行のジャッジシステムの巧妙なところは、スケーターが自身の得点を越えようと挑戦できるということです。彼はフリープログラムの記録を初めて破り、そのあと、自身の記録を8点超えてみせました。

オーサーはここで、4回転ループを入れることと、ステップのレベルを上げることで、さらに得点を上乗せできると考えている。羽生は、4回転ループを公式戦ではまだ挑戦したことがないが、エキシビションなどで披露しているのを見ると、試合でプログラムに組み込む日もそう遠くはなさそうだ。ジャンプ以外に関しても、羽生はグランプリファイナルで、ステップのレベルを取りこぼしている。オーサーがここで分析しているように、まだ点数を伸ばす余地はあるようだ。

高みを目指しつづける羽生と、羽生を温かくサポートしながら課題を冷静に分析するオーサー。この2人のタグが、フィギュアスケートという競技のレベルをどこまで押し上げていくのだろうか。シーズン最大の試合である世界選手権は、あと2週間後に迫っている。

Yuzuru Hanyu Sets the Bar