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パトリック・チャン インタビュー「羽生とフェルナンデス、4回転について」

滑りの美しさを追求することと、高難度の構成に挑むこと。フィギュアスケートという競技がつきつける2つの課題のはざまで、ベテランのチャンが我々にどのような姿を見せてくれるのか。世界選手権での戦いが注目される。


2014年-2015年シーズンを休養にあてた後、スケートカナダで公式戦に復帰したパトリック・チャン。グランプリファイナルではショートでの出遅れが響き表彰台を逃したが、四大陸選手権ではフリーで自己ベストを更新して優勝し、元世界王者の健在ぶりをアピールした。

2015-16年シーズンは、男子シングルの4回転時代が新たな段階に差しかかっていることを感じさせる年となった。羽生結弦はショートに2つ、フリーに3つの4回転を入れる高難度構成に変更し、NHK杯とグランプリファイナルで世界最高得点を2度更新した。羽生と同門のハビエル・フェルナンデスも、ショートで2つ、フリーで3つの4回転を組み込み、欧州選手権で自身初となる300点超えを達成した。シニアデビューした選手の中にも、フリーに4つの4回転を組み込む中国のボーヤン・ジンや、基礎点が1.1倍となる後半に4回転を組み込む宇野昌磨など、羽生とフェルナンデスの後に続こうとする動きが見られる。

チャンは、男子シングルのこうした現状をどのように見ているのか。1月末に行われたカナダ選手権で、自国のメディアに思いを打ち明けている。

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◆男子シングルの勢力変化

世界の中での自分の立ち位置について、チャンは次のように語っている。

僕は今、世界で自分が置かれたポジションが、パニックとは無縁の場所でよかったと思う。(ユヅとハビエルに向かって)「やってみろ、頑張れ」と言うような感じだ。ユヅとハビエルはしのぎを削るだろう。僕は少し引いたところで、自分の戦略や計画を練ることができる。そして、彼らがこれからどうなっていくのかを眺めることができる。怪我をする可能性だって常にあるだろう……。そのうち、これ以上は進化できないという段階に差しかかる、そうなるはずだ。ユヅは4つ目の4回転をフリーに入れようとするかもしれない。でも4つ目の4回転を入れたら、リスクが大きくなる。リターンに対するリスクが、さらに大きくなる。だから僕は、彼らを戦わせておいて、少し引いたところからこのショーを楽しむことにするよ。

フリーに4回転を4つ入れる場合、トランジション(注:ジャンプとジャンプの間のつなぎのこと)での滑りの質をそれまでと同じだけ保てるか疑問だ。本当に正直に言うと、この点に関する僕の経験と信用からすれば、4回転を3つ入れるだけで滑りの質は落ちる。

チャンはここで、羽生結弦とハビエル・フェルナンデスという、男子シングルを牽引している2人の名前を挙げながら、4回転の本数を増やそうとする全体の潮流から距離を置こうとしていることを強調している。

彼はまた、ジャンプの難易度を上げることと、滑りの質を保つこととの両立の難しさについて語っている。今シーズンはフリーで2度の4回転トゥループを組み込んでいるチャンだが、さらに多くの4回転を入れるようになれば、フィギュアスケートの本質とも言える滑りの美しさが失われてしまうのではないか。そのように危惧していることがうかがえる。

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◆ 世界選手権に向けて

「これぞフィギュアスケートという作品を世に残したい」という理由で競技に戻ってきたチャン。四大陸選手権のフリーは、まさにその言葉通りとも言える、フィギュアスケートの真髄を見せてくれる圧巻の出来だった。

しかも彼は、フリーではそれまで1度しか入れていなかったトリプルアクセルを2度組み込む構成に上げたうえで、全てのジャンプを成功させている。4回転の数や種類を増やすことに疑念を呈する発言をしているチャンだが、試合で構成の難易度を上げて、過去の自分の得点を塗り替えてみせた背景には、羽生やフェルナンデスはじめ、周りのライバルたちが次々と高難度構成に挑み、競技全体のレベルを押し上げていることが少なからず影響を与えているだろう。

滑りの美しさを追求することと、高難度の構成に挑むこと。フィギュアスケートという競技がつきつける2つの課題のはざまで、ベテランのチャンが我々にどのような姿を見せてくれるのか。世界選手権での戦いが注目される。

Chan is right where he wants to be